入社のきっかけは、自分の可能性を試してみたかったから。元々は内装職人をしていたのですが、まったく知らない世界でどこまでできるのか試してみたいという思いがあり、転職活動をスタート。そのなかで運良く出会ったのが天池でした。入社してみたら周りは経験者や、学校で専門的に学んだ人ばかり。自分が一番できませんでした。料理もやらなかったので「牛肉」「豚肉」「鶏肉」の見分けも付きませんでした。そこからは、とにかく努力。人の3倍は努力しました。無知だったからこそ、すべてが新鮮で、何もできなかったからこそ、成長が楽しかった。出来ることが増えると嬉しくて、やる気がでて、また頑張れました。
最初からやる気だけはあったので、入社時に「3年で店長になる!まず3ヶ月でここまで出来るようになる!」と自分のなかでリミットを立てて、自分を追い込んでいました。早く仕事を覚えたくて「どうやって切るんですか!?」って聞いて回ったり、「やらせてください!」と自分から手を上げて挑戦させてもらいました。周りの先輩たちからも「失敗してもいいから、やってみな」って言ってもらえて、やらせてもらえたのが嬉しかったです。何度も挑戦して、上達したら褒められて、やる気が出て、また挑戦する。良いサイクルができあがっていました。
天池の店長は“自分の店”を経営しているようなもの。自分で仕入れて、自分で売価を決めて、全部やらせてもらえる。社長の言葉を借りると「店長は社長だ」っていうぐらい、すべて任せてもらえます。店舗の地域性やニーズにあわせて、本当好きなようにやらせてもらっていますね。「国産牛は和牛しか置かない」とか「輸入牛は全部やめる」とか、自分で決めてやっています。天池というベースの上に「自分のブランド」を築いている感じです。お客様と直接会話して、売り場を観察して、何が求められているのかを探していく。当たるまで探すのも楽しみの一つです。
「3年で店長」を目標に掲げたものの、実際には入社3年で店次長。店長になるまでに6年かかりました。それでも異例のスピード昇格だと言ってもらえています。自分の強みはお客様が求めるものを客観的に見られること、そして数字を作れることなので、そこが評価されたのではないでしょうか。冬場でも昼は暖かければ生姜焼きを売り出して、夜になって冷え込んできたらガラッと鍋物を中心にする。1日のあいだに売り場をガラッと変える。それぐらいできないと他との差別化はできません。こうやって自分で考えて結果を出すことで「売る楽しみ」が増えますよね。
目利きは誰にも負けたくないですね。絶対に妥協しない。自分でモノを見て、より良いほうを選ぶ。「これを仕入れれば絶対お客様が喜んでくれる」と思えるものを自分で探す。全部自分でやってます。お肉って同じブランドでも個体個体で、ぜんぶ違う。一頭の牛のなかでもモモがいいとか肩がいいとか、キロ数や大きさをみて商品にしやすいかどうかを総合的にみることでコレだなって。そこまで考えて初めてお客様に喜んでいただける。数字がつくれるんです。
待ちの姿勢ではなく、お客様に寄り添って提案することも大事にしています。お客様から「ステーキどれがいいかな?」って聞かれた時に、まず目的を聞く。霜降りがいいのか、赤身がいいのか、柔らかいのがいいのか、歯ごたえがあるのがいいのか、誰が食べるのか。そこまで聞いてお客様の満足度を高められる。だからこそ、お客様から「この間のお肉美味しかったよ、また選んで」ってリピートしていただけるんです。「櫻井さん呼んで」って指名いただくことも多いです。レジの先の、食卓の光景までイメージする。そこまでしてやっとお客さまからの信頼を得ることができるんです。
前の職場もお肉屋さんでした。辞めた理由は「もっとレベルの高い職場に行きたかった」というのが表向き。本当のところは自分が若くて、指示に従うだけの仕事に反発して、遠方に飛ばされて、それならいっそ辞めようと。その頃ちょうど近所に天池が出店したので、ぜひ入りたいと思いました。入社前にお店を覗いてみると、キチッとしていて、雑さがない。丁寧なんです。そして、いざ入社してみて、切り方へのこだわりの強さを感じました。一度お肉を冷凍庫でしめて、切りやすくしているんです。そのひと手間が大事なのかなって思ったのは、正直ありましたね。
安く売るのは誰でもできます。高くても買いたくなる付加価値をどう付けるのか?その技術を伝えるのが僕の役割。指示を出すのではなくて、過去の事例を試しに実践してもらって「上手くいったら、その成功体験を自分の宝にしてね」と、引き出しを増やしてもらうんです。あと、天池はとにかくレベルが高いので、中途で自信を持ってきた人でも周囲のレベルの高さに驚くはず。井の中の蛙ではないですが、周囲との差に自信を打ち砕かれるかもしれません。それでも入る価値のある会社です。高いレベルを身につけられるので、いて損はない。自信がある人、好奇心がある人、自分の意思がある人、どんどん意見を言いたい人、大歓迎ですね。そういう人大好きなんで。
天池の売りは自由。普通のスーパーではバイヤーが仕入れをします。天池にはバイヤーがいません。店舗の仕入れ担当が自分で仕入れて、自分で売り切る。これが天池スタイル。大きいスーパーだと、会社によっては売り場づくりや売り方までバイヤーが仕切ります。自分も元々直営スーパーに務めていたんですけど、そこではバイヤーの指示から外れたことをやると指摘されるんです。そういう路線は自分には合いませんでした。天池なら全部自分たちで作れる。結果が出れば文句は言われません。自分の好きなようにやれるのが、天池の楽しさです。
例えば、天池の籠原店で店長をしていた時。地元のブランド牛「深谷牛」を偶然仕入れることができたんです。これが爆裂的に売れた。地元の人は「深谷牛」の存在を知ってはいても、百貨店でしか売られていない高級肉というイメージだったんです。それが「深谷牛、安く買えるじゃん」と。そこから他店舗でも銘柄和牛ブームが広がりましたよ。まだ「地産地消」なんて言葉がなかった時代、それを実践していたんです。偶然ですけどね。もしもマニュアルが厳しい会社だったら、そこまでやれなかったです。地域性を出せる天池だからできたことですね。
売るんだったら気持ちをこめる。やると決めたらとことんやる。熱い気持ちがないと売れるものは作れません。僕自身、肉のアヒージョセットとか、晩酌セットとか、売れた商品を数多く企画してきましたが、そのぶん失敗も多いです。1回やってダメでも「こうしたらどうだろ」「量目を買えたらどうだろう」と試行錯誤するのが大事。すると何かのタイミングで売れるときがある。これは熱い気持ちがないと続きません。冷静にやってるだけだと途中で諦めちゃいます。諦めないで継続できる気持ちが大切なんです。
アイデアを生むためには、普段の生活で触れるものすべてに対して「これでいいのか?もっと良くならないか?自分ならどうするか?」と考え続けること。記憶の片隅にアイデアの種が生まれて、ふとしたきっかけで花開きます。例えばアヒージョのタレがサンプルで届いた時に、ピンときたことがあるんです。アヒージョって魚介のイメージが強いですが、色んなお肉で試すとこれが美味しい。それで売ってみたら、コレが当たった。こうやって閃いたアイデアをパッとすぐ実践できるのも、天池の魅力です。ガチガチな会社だったら勝手にできませんから。
天池に入ったのは20歳のころ。元々うちの家業は美容師で、そっちを継ごうかとも一瞬思ったんですけどね。やっぱりちょっと違うなと。親のレールに乗るのが嫌になったんですよね。そんな時、たまたま見つけたのが天池。いざ入社して、一通りの仕事を覚えるまでに3年。その後25歳で店長。39歳でエリアマネージャー。42歳で統括部長になりました。正直、入社した最初のころは、何かやりたいとかは全く思っていなかったんですけどね。入ってみたら、やっぱり売る楽しみを教えてもらったな。それが今に繋がっているんだと思います。
「売る楽しみ」が天池の特徴。会社がこうやれって押し付けるんじゃなくて、店長や従業員が自分たちで考えて実践できる環境なんです。自分たちで仕入れたり、自分たちで商品を作ったり、自分たちでアイデアを出したりとか。それをお店でやれるっていうのが面白さなんじゃないですかね。これはもう昔からですね。私自身、売るために色んな形で試行錯誤してきました。同じ商品でも、切り方を変えてみたり、盛り付けを変えてみたり。一度失敗しても再チャレンジすることが大事なんです。何度でも挑戦できる度量が、天池にはあります。
天池は品質に妥協しない。切り方一つにしても、料理にあった切り方をする。そこへのこだわり方は絶対に負けたくない。例えば、肉の脂の厚さは適度なものがいいんですよね。だから、全部の肉の脂が適度になるように切る。パックごとに差がつかないよう均等に分ける。そういう細かい違いを、消費者様はわかっています。今後はさらに「肉と言ったら天池」という存在になりたい。例えば「今日は息子が帰ってくるから、ステーキにしようかな」というときに、パッと「ステーキといったら天池だ」っていう存在になりたい。コレは間違いない。
以前、社長に連れてってもらった映画があるんです。「ステーキ世界一はどこだ!?」みたいなドキュメンタリー。その後、社長と一緒にその映画で優勝したスペインのお店にステーキを食べにいったんです。やっぱり肉が厚い。その体験を通じて、自分も目線が変わりました。感動があるんですよね、美味しいもの食べた時って。貧弱なステーキだとやっぱりね、幸せを感じないんですよ。だから高くてもステーキは厚切り。安く売るという考えはないです。お客様にも本物のステーキで感動してもらいたい。肉は感動できるエンターテイメントなんです。
ダメ出しはしない。意欲を活かす。肉の切り方を覚えて、ゆとりができて、自信がついてきたら「このお肉、自分だったらどうやって売りたい?」と投げかけて、自分で考えて売る楽しみを体感してもらう。考えさせて、結果が出ると、自信になって、やる気が出る。自信を育てることが大事なんです。一人ひとりにあわせて、その人の自信を一番育てられるコミュニケーションを選ぶんです。この人はこうした方がのびのび働けるかな。この人は物静かだからこうかなとか。一人ひとりと向き合い、ゆっくり育てていく。常にコミュニケーションです。
相手もしっかりした意見が言える、不満があれば言える、そういった環境づくりは心がけています。それと、やりたいことは思い切ってやれと背中を押す。そのうえで、良かった点と悪かった点を確認して、じゃあ違う形でトライしてみようと背中を押す。思い切ってやれと。ダメ出しはしない。そこから生まれるアイデアもありますし、自分が勉強することも多いです。自分にはない視点や、若い人の考え方、そういうのもしっかり受け入れたうえで、天池の強みや伝統を組み合わせて、その人ならではの強み・自信を育てていきたいです。